現実世界と
パラレルワールドのつながりを
研究する若者たちの
奇妙な冒険の物語。
大学に入学したものの、将来への希望を持てない青年 江崎紀(えざき おさむ)。
怠惰な生活を送り、不眠に悩まされていた。
そんな彼は、ある日あまり話したことのない同級生に話しかけられる。
「これを使えば、眠りを取り戻す方法がわかるかもしれない。」
そう言って奇妙な護符を差し出す同級生の言葉に従うと、
夢の中に、現実世界を「反転」して作られた「ミラー世界」なるものが現れる。
そこでは、秘密裏に活動する学術団体 ウォトゥーリア・エノマによって、
あるパラレルワールドの研究が行われていた。
紀の眠りが妨げられていることは、
どうやらそのパラレルワールドと関連があるらしい。
そして紀の行く手には暗い影が迫っているのだった——
用語解説
ウォトゥーリア・エノマ Woturih Enoma
正式名称を「国際異世界研究機関ウォトゥーリア・エノマ(IPWRI-WE)」という。フィラクスナーレの存在に最初に気づいたワスィイ・アル=カースィム教授を中心とし、2008年に立ち上げられた研究団体である。異世界の存在を主張し、さらにフィラクスナーレから人類の現世界への移動を提唱すれば、人々の価値観にあまりに大きなパラダイム・シフトをもたらすばかりでなく、オカルトの類だとされて批判を受けるだろうとの考えから、現在はミラー世界の中で極秘裏に活動している。
ヴァロケリム語 Varokerim
ヴァロケリム語は、フィラクスナーレに存在した言語である。最新の研究によれば、人々の生活の中で自然に成立した自然言語ではなく、特定の個人もしくは集団によって作られた人工言語であった可能性が高いらしい。
時制は過去・現在・未来をもち、性・数の区別はない。名詞に5種類の接尾辞がついて格を表現する。
復元されたヴァロケリム語の書物の断片
ホモ・コネクトゥス Homo Connectus
フィラクスナーレ世界から移住してきた人類は、そのほとんどのものがフィラクスナーレにいた時の記憶を失っている。この過去の記憶を無意識の中に保っているものが世界にごく少数おり、彼らをホモ・コネクトゥスと呼ぶ。
『世界のあいだ』には江崎紀と村田知枝の2人のホモ・コネクトゥスが登場する。
ホワイト・タイガー White Tiger
ウォトゥーリア・エノマの歴史言語文化部のチーフ・秋山玲子教授によって率いられ、中野智宏・江崎紀・村田知枝を中心に結成された研究チーム。ホモ・コネクトゥスの意識をフィラクスナーレの情報を蓄積したデータベースに接続し、無意識に埋れたフィラクスナーレの記憶を呼び覚まして記録する作業と、得られた情報をもとに文書の解読を進める作業を主な活動内容とする。
ミラー世界 'The Mirror'
研究者たちが世間から隠れてフィラクスナーレの研究をするために、現実世界の一部分を反転して作り出した特殊空間。「護符」と呼ばれる特別なデバイスを使って睡眠を取ることで入ることができるが、「護符」を持たない一般人にはアクセスできないため、空間内で保存されている機密情報は守られる。
フィラクスナーレ Firraksnarre
この世界とは全く違う時空間に存在するパラレルワールド。その名前はヴァロケリム語で「炎を使う者の住む国」を意味し、つまりそれは人間たちの住む世界をあらわす。
人類は本来フィラクスナーレに住んでいたが、フィラクスナーレが滅びる際に生き残りをかけて脱出し、新たな世界に辿りついた。この辿り着いた先が現在の我々の世界である。